
社会人4年目に差し掛かろうとしていた僕は、都内のシェアハウスに住んでいました。
その当時、不動産会社の営業マンとして働いておりました。毎月の給料も安定していなかったため、少しでも固定費を下げようという狙いでシェアハウスに住むことにするのです。
しかし、シェアハウスに引っ越してからわずか3か月でシェアハウスの管理会社が倒産し、突然の退去勧告がなされました。
引っ越したばかりで新たに引っ越しする費用を用意できなかった僕は、そのままシェアハウスに住み続けることに…
シェアハウスのほかの住人が退去し、電気もガスも止められる中、たった一人、僕だけが空虚な空間に取り残されることになるのです。
レンタルオフィスからシェアハウスへ転居
シェアハウスに住む前の話。
不動産の営業マンとしてようやく1年目を終えた僕は、新たに家を探す必要があった。
都内の一等地のレンタルオフィスを期間限定で月3万円で借りて住んでいたのだが、その満期が来たのだ。
(なぜレンタルオフィスに住んでいたのか、激動のレンタルオフィス編はこちら→準備中)
レンタルオフィスがある建物自体を取り壊すとのことであり、ずっとそのまま住み続けるという選択はできなかった。
やむなく、新たに部屋探しをすることにした。
その当時、不動産営業マンとして半人前だった僕は、まだまだ歩合を稼ぐのに苦戦しており、生活費を抑えるために家賃のとにかく安い家に住む必要があった。
様々な物件を見てきた中で、僕が選んだのが前述のシェアハウスだ。
その2階建てのシェアハウスは都内の駅から13分と立地こそ微妙だが、新築で家賃も管理費込みで4万円、光熱費も管理会社負担、初期費用も全部で10万円以下。
洗濯機や乾燥機、電子レンジや掃除機など、最低限の家電もついていて、コストを抑えたい僕にとってはうってつけの物件だった。
そして何より、そのシェアハウスは15部屋中1人しか住人が住んでいなかった。
しかもその住人は2階に住んでいたので、1階に住めば顔を合わせることもないだろうと考えた。
根は陰キャでコミュ障な僕にとって、これはとんでもない奇跡の物件に思えた。
僕はさっそく管理会社に連絡し、部屋の内見もせずに即日そのシェアハウスへの入居を申し込んだ。
2,3日で入居審査が終わり、超スピードで契約をしていた。
正直ワクワク感が止まらなかった。
レンタルオフィスに住んでいた時は、お風呂のない約2畳の狭さというとんでもない空間で寝泊まりしていたので、普通の家(普通ではないかもしれないが)に住めることが嬉しくてたまらなかった。
自分でした選択ではあるが、普通の家に住むという人権の半分くらいを失っていたので、普通の権利をまた得られたのだと感じたのだ。
もうジムのシャワーにわざわざ通わなくて済む。エアコンが自由に効かない空間にいなくて済むと考えると、普通の家があるということのありがたみをしみじみと感じた。
そして契約から約1週間後、そのシェアハウスに居を構えることになる。
なんと快適なシェアハウス
シェアハウスでの生活は、非常に快適だった。
東京23区内で4万円の物件というのをイメージすると、某お笑い芸人が住んでいる〇〇荘のようないかにもぼろくて狭い部屋をイメージするだろう。
しかしそのシェアハウスは、新築で・4畳半だけどキッチンなどの共有スペースはきちんと広い。独立洗面台も2基あった。
僕が住んでいた1階にはほかに誰も住んでいなかったので、共有スペースも使い放題だった。
洗濯機2つ、乾燥機2つを1人で独占するというぜいたくさ。

(暗いしハンガーがみっともなくて申し訳ないが…)
週1回、共有スペースを掃除しに来てくれるおばさんもいた。
お風呂は、シャワー室しかなかったが十分だった。
お湯につかりたいときは銭湯に行ったり何でもできる。
しかも、当初の目論見通り、2階の住人にも会うことはなかった。
彼は夜に仕事に行って朝に帰ってくるようであり、僕とは真逆の生活習慣だったのだ。(実際に聞いたわけではないが、玄関が共有なので靴の有無でそう判断した。)
もう実質一人暮らしをしているのと変わらなかったのである。
女性同居人とひと夏の体験を期待していた人には申し訳ない。(そもそも男子専用シェアハウスだったし…)
それどころか、一人暮らしの次元ではなかった。
そのシェアハウス自体は独立した家屋になっていたので、もはや一軒家に住んでいる感覚である。14部屋の開かずの間があってそのうち1つに謎の住人が住んでいる一軒家である。
とんでもない当たり物件に出会えたと思った。
それに他の住人が新しく引っ越してくる気配もなかった。
というのもその物件は、7月に入居を募集してから、半年以上も経っているのに、僕と謎の住人の2人以外は誰も入居していなかったからだ。
賃貸不動産繁忙期の3月になっても誰も入居してこないことがわかると、それはもう誰も引っ越してこないと確信しても不思議ではないであろう。
僕はこの家に何年でも居座り続けてやろうと企んでいた。
しかし、やはりそんなうまい話は続かないのである。
突然の管理会社破産の知らせと電気・ガスが止まりますとの張り紙が共有ホワイトボードに張られているのに気づき、僕は絶望した。
シェアハウス管理会社の破産!そして誰もいなくなった…
皆さんお気づきかもしれないが、僕が住んでいたシェアハウスは、かぼちゃの馬車というシェアハウス会社が管理していた物件であった。
かぼちゃの馬車のビジネスモデルはこうだ。
再生ボタン↑をクリックするとスライドが始まります。
- シェアハウス会社が、土地を買い取ってシェアハウスを建てる。
- シェアハウスを買いたい人が銀行から融資を受けて買う
- シェアハウス会社は買主に変わって物件を管理し、入居者がいるかいないかにかかわらず、毎月同じ家賃を買主に支払う。買主は管理会社に管理手数料を払う(サブリース)
- 買主は銀行に融資されたお金を返済する
- 入居者が入居する
- シェアハウス管理会社は、入居者から家賃を回収する。
(さらに詳しく知りたい人は、こちらの記事にまとめられています→ https://www.fudousantoshi-times.com/pro/risk/8267 )
かぼちゃの馬車は、『サブリース契約』という形態で買主と契約する。
通常の不動産の収益は、入居者の家賃がそのまま買主のもとに払われる。もし入居者が入らないようなことがあれば、その分の家賃は払われない。
6戸建てのアパートを購入した場合、家賃6万円で満室であれば36万円の収益になるが、1人も入居が入らなければ収益は0である。もし融資を受けていて、毎月の返済がある場合、入居がなければ借金を返せない。
一方サブリースは、物件に空室が出た際も管理会社が一定の金額の家賃を保証してくれる。
先ほどの6戸建ての家賃6万円のアパートの場合、家賃の満額は36万円だが、例えば25万円が毎月必ず買主に払われる。たとえ空室が出て物件に1人も入居者がいない場合でも25万円を払うという契約だ。
管理会社は、家賃36万円とサブリース賃料25万円の差額分9万円+管理手数料を収益として上げる仕組みである。
このような内容のサブリースだが、買主にとっては安定した収入を得ることができるのし空室が出ても借金を返せるので、多くの不動産会社において人気商品となっている。
しかし、ここで僕が住んでいたシェアハウスのことを思い出してほしい。
部屋数は15部屋だった。15部屋×4万円と全部屋埋まっていたなら、管理会社に60万円入る計算になる。
しかし、僕が入居していたころは、15部屋中2部屋しか入居者がいなかった。
つまり管理会社には、4万円×2=8万円しか払われないことになる。
にもかかわらず、サブリース賃料(例えば45万円)を買主に支払わなければならないのである。
この管理会社は、約800棟ものシェアハウスをサブリース契約していたため、毎月何十万円もの損失×800もの大金を補填しなければならなかったのである。
ここまでくれば、管理会社がどのような運命をたどるかが想像にたやすいだろう。
ついにはサブリース賃料を買主に払うことができなくなり、かぼちゃの馬車は破産したのである。
最大の被害者は「買主」だ。
毎月何十万円も支払われていたサブリース賃料は当然、かぼちゃの馬車の破産によって支払われなくなるのである。
そしてかぼちゃの馬車が売っていたシェアハウスは、土地と建物含めて総額1億以上であり、仮に1億円の物件を35年金利3.5%で借りた場合、毎月の返済額は41万円にもなる。
買主は、突如として巨額の負債を負ってしまうことになったのだ。
そして、われわれ入居者も被害者である。
毎月の光熱費を管理会社が支払いしていたため、光熱費を支払う人がいなくなってしまったのだ。
ある日の夜。仕事で疲弊した僕は日付も変わろうとしているときに帰宅し、共有ホワイトボードに貼ってあった紙を見て内容に驚愕した。
●月×日 電気が止まります。
~日までに退去をしていただきますようお願いします。
…
(その紙はどこかにとってあったはずなのですが、なくしてしまったらしい。何かのタイミングで出てきたら貼っときます。)
仕事で疲れていたので即行で寝ようとしていたのだが、その紙を見て僕は眠れなくなってしまったことを覚えている。
電気が止まる?
退去しろ?
まだ引っ越してきて3か月だし、引っ越しの費用もないし無理だよ…
ずっと居座り続けようと決めた矢先のことである。
普通にストレスなく暮らしていくことはできないのか?
生きていくだけでお金がかかるこの世の中を呪った。
退去勧告を受けた事実を受け入れられなかった僕は、新しい部屋を探す気力もなく、何も行動することができなかった。
結局2階の謎の住人は、一度も顔を合わせないうちに退去してしまったらしい。15部屋のシェアハウスには、とうとう僕以外の誰もいなくなってしまった。
そして電気が止まると書かれた日を迎え、少しくらいの猶予はあるだろうというわずかな希望も崩れ、あっけなく電気は止まった。
誰もいないシェアハウスでの暮らし
電気もガスも止まった誰もいないシェアハウスに、僕は住み続けていた。
正確に言うと、電気とガスを自分で契約して何とか生き延びていたのだった。
大型の物件になるので、電気は基本料金だけでも1万円を超えていた。ガスはなぜか安かったけど…
なぜ住み続けることができたかというと、なんと月に4万円払っていた家賃が引き落とされなくなったからだった。
それまでは管理会社に直接家賃を引き落とししてもらったけど、管理会社が破産したからなのか、その会社からの引き落としの記録はなくなっていた。
その瞬間、僕は思ってしまった。
ラッキー!!
今まで4万円払っていた家に、タダで住めるという状況に正直安堵してしまったのだ。
光熱費は自己負担になるが、総額2万円にも満たない。
「いずれ新しい管理会社が決まって連絡が来るだろう。その時に退去しよう。それまでせめて引っ越しするお金をためさせてくれ。」
そう思い、しばらく住み続けさせていただこうとしていたのだ。
正直誰もいないシェアハウスは快適だった。
物件を管理する会社もなくなり、新しい入居人を募集することさえしていなかったので、新たな住人が入居してくることもない-
本当に自分の一軒家を手に入れたような気分になった。
「このまま家を乗っ取ることはできないか」そんなことが頭の中を一瞬よぎったりもした。
シェアハウスからの脱出
しばらく無管理になったシェアハウスに住み続けていた僕を襲ったのは、罪悪感だった。
この家の持ち主って、今はどうしてるんだろう。
家賃が引き落とされなくなって2か月くらいたつけど、この家に訪れてくる気配すらない。
このまま住み続けていいのだろうか…
とはいえ、その家の持ち主の情報がわからない。
持ち主に家賃を払いたくても払えなかった。
苦しい思いをしているであろう家の持ち主のことを考えると、自分が家賃も払わずに住み続けていることが耐えられなくなってしまったのだ。
そして僕は、その当時付き合っていた彼女の家に住ませてもらうよう頼みこみ、シェアハウスを脱出する。
期間的にはわずか半年程度の出来事であった。
短かったようで長かった僕のシェアハウス生活は終焉を迎えたのである。
その後
僕のシェアハウスで生活した体験談は以上です。
その後、物件の登記情報から持ち主の情報を知ることができ、無賃で住んでいた期間の家賃は無事にお返しすることができました。
持ち主の男性は、運よく東京に住んでいたので直接お会いすることができたのですが、一連の騒動でとても疲弊しきったような雰囲気でした。
それもそのはずです。
僕が退去した今、あのシェアハウスには誰一人として住んでいません。持ち主に収益を生み出すことはありません。
資産になると思って買ったはずのシェアハウスは、想像もつかないほどの大きな負債になって持ち主の方に重くのしかかることになったのですから。
僕はその事実にいたたまれなくなりました。
恐らく自己破産するのだと思いますが、それでも精神的なダメージを負ってしまったに違いありません。
管理会社はどのようなつもりで物件を売ったのでしょうか?
最初から破産する算段だったのなら許せないことですが、人を幸せにするために売ったのなら、売主も買主も入居者も本当に誰も幸せになりません。
起業家として人に価値を提供するということは、その人の人生をプラスに動かすこともあれば、今回の事例のように大きくマイナス方向に変えてしまうこともあるということです。
-顧客には、絶対に損をさせてはいけない-
そうでなければ、そんな会社は最初からなかった方がいいのです。
起業家として独立したり会社を作ったりする以上、必ず顧客のためにプラスの影響を与えると誓ってください。
このサイトでは起業の勉強をすることを推奨していますが、もし悪いことをしてお金を巻き上げようというなら、起業の勉強なんてしなくていいです。
セールススキルやマーケティングスキルは詐欺にも使えます。
自分の力は、そういう詐欺ではなく人を幸せにするために使ってください。
そして、人を幸せにするつもりが不幸にしてしまう可能性があるということも肝に銘じておいてください。
そうならないようにどうするか、起業したあなたは考えに考え抜かなければなりません。
そして顧客を幸せにすることができれば、おのずと自分も幸せになれるでしょう。
それが起業する本質だと私は思っています。
マーケティングやセールスについて学ぶ↓↓↓